※ひと月前の結果を聞きに行って……
《11月27日(土)》
新卒の就職が大変らしい。
M.A.P.的就職支援。「青年座の制作」に続く第二弾。
null アイアンポットでオカマ募集中

働こうと思えばきっと働き口はいくらでもある。大学生たち、それほど大企業の正社員がいいのだろうか。

今から16年前の春。僕は(入社試験の面接では「私」と言わなければいけないらしいが)、泌尿器科の患者ばかりの大部屋に入院していた。まわりは殆ど前立腺肥大の簡単な手術を受ける患者ばかりだった。聞こえてくる彼らの会話は、手術後どれだけ勢いよく小便が出るようになったかを競う話と、長年勤めた会社の苦労話ばかりで、大企業に就職すれば一生安泰という時代だから、どれもこれも変わり映えのしない詰まらない話だった。
僕だけが若く、浮いていた。だから誰一人僕に話しかけるようなおじさんはいなかった。

それでも、大きな会社の管理職といった風の男性がちょっとしたはずみで僕に声を掛けたことがある。
「あなたは何で入院されているんですか」
「腎臓ガンです」
「ああ」
彼はそれ以上何も言わずに、薄ら笑いを浮かべて、何も聞かなかったかのように、また他の患者との相も変らぬ話の輪に戻っていった。

彼らは大概10日ほどの入院で、名刺交換などして順次退院していった。僕に声を掛けていく人は皆無であった。空きベッドはまたすぐに埋まった。半日もすると、同じような人が笑顔で入ってきて、そして同じような話を始めるのである。

ある日そんな病室に、パンチパーマにだぶだぶのジャージという40歳くらいのガタイのいいの男性が、毛皮を着た金髪美女を引き連れて入ってきた。とめどなく続いているおじさんたちの話し声が一瞬途絶えた。これで浮いた患者が二人になった。

僕は、談話室にいた彼に聞いた。
「どうしたんですか」
「金玉が腫れちまってよう」
彼はニヤっと笑った。だから僕もニヤっと笑って「へえ」と答えた。
「にいちゃんはどうしたんだい」
「腎臓ガンです」
笑っていた彼が真顔になった。
「そうか」

もうひとり、パンチパーマの彼に病名を尋ねたお調子者のおじさんがいた。しかし聞かれた彼はベッドに座って雑誌に目をやったまま何ひとつ答えず、質問をしたおじさんをチラとも見なかった。

彼は3日ほどで退院となった。きっと金玉の腫れがひいたのだろう。金髪美女が迎えに来た。荷物をまとめ終えると(というか美女にまとめさせると)、彼は僕のベッドまでやってきて、僕の目をまっすぐに見た。
「にいちゃん、がんばれよ」
僕は目頭が熱くなった。そして、小さく頷いた。彼の顔が少し笑ったように思えた。それから彼は、病室の外で待っている美女の方へ歩いていった。

あれ、僕はいったい何を書いているのだろう。つまりさ、どうしてそんなに大企業の正社員になりたいの、という話。

今、人形町から喜多見に戻ってきたところだ。16年前に僕の右腎臓を摘出した医師が人形町で開業医をやっている。今日はそこへ10月1日にやった検査の結果を聞きに行ったのだ。
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ちょいと気にかかることがある。今日の再検査の結果については、12月6日の月曜日に聞きに行こうと思っている。
少なくともそれまでは、オカマ募集の看板を撮影して、金玉が腫れた話をするくらいには元気である。
健康ゲームなんてカテゴリを作らなければ、こんな話はきっとしなかった。人間は、自分の病気の自慢が大好きなのである。死に至る病でない限り。小便の勢い談義に花を咲かせるおじさんたちと全く一緒。