沖縄語の音韻講座を始めから読む

『沖縄大百科事典』の「琉球方言の子音」の項において、「琉球方言の子音の特徴」として、第一番目に声門破裂音(glottal stop)の[ʔ]があることを上げています。
ʔ は、声門破裂音を表すIPA表記(国際音声記号)です。
(以下、青字は『沖縄大百科事典』より引用)
「ʔは語頭に立ち、母音や半母音w、jの直前に位置する」

まず半母音について確認をしておきましょう。
上の分の中の[j]は、ローマ字でいえば[y]のことです。半母音については、前回の音韻講座でもちょっと触れましたが、音声学的にきっちり説明しようとするとけっこうややこしいのです。でもここでは、子音だけれども他の子音とはちょっと違って、母音的な正確を併せ持つ子音である、くらいにで事足りるのではないでしょうか。例えば[wa]ですが、これ[u]と[a]を、すばやく連続して言った感じじゃありませんか。[ya]は[i]と[a]、[yu]は[i]と[u]みたいな感じ。だから[ya]は母音的であり、従って、その前に別の子音が来ることができるというのです。[r]が付けば[rya](りゃ)、[n]が付けば[nya](にゃ)とかいう音になるわけですね。

そこで、ʔ(声門破裂音)に話を戻しましょう。先の文章の「母音や半母音w、jの直前に位置する」の意味は、まず母音の「あ・い・う・え・お」と、子音の「わ」と「や・ゆ・よ」の前にʔがくっつくことがあり、くっつくと、それらの音が声門破裂音になるということです。
さて、では声門破裂音とはどういう音なのでしょうか。これまでも、何度も苦しい説明をしてきました。

FM世田谷に出演した時は、さっぱり分かりませんという話をしました。
儀間進さんはウッと荷物を持つ時のように喉仏の下あたりに力を入れるとおっしゃいました。津嘉山さんは[ʔwa]を言う時、「う」と「わ」を一緒に言うのだとおっしゃっていました。
ちょうど一年前には少し言語学的に説明してみました。

あんまり参考にしたくないWikipediaですが、そこには「子音の類型の一つ。閉じた声門が開放されて起こる破裂音。咳をする直前に感じられるような声帯の締め付け具合から一気に息を出したときに出る音。」となっています。
まあ、いくら文章で書いたって、よく分かりませんよね。

さて、次に「ʔは語頭に立ち」ということは、必ず単語の頭で使われ、単語の途中に現れることはないということです。そして、母音や半母音から始まる単語には、ʔが付く言葉と、ʔが付かない言葉があるよということをいっているのです。

「この音声が弁別的な機能を果たしているのは、日本語のなかで琉球方言だけである。」
さて、これはどういう意味なんでしょうか。これは日本の中で沖縄の言葉だけに声門破裂音があって、他の地域にはないということを表現しているのではありません。他の地域では、ʔが語頭に付こうが付くまいが意味は同じだが、沖縄の言葉の場合はʔが付くか付かないかで意味が変わってしまう場合がある、ということなのです。それが「弁別的」という意味です。
 ⇒(参考記事)音韻と音声の違いについて

さて、一応、声門破裂音については今日のところはこのくらいにして、前回の50音表(もう50音ではありませんが)に、声門破裂音の行を付け加えてみましょう。
声門破裂音があるのは母音と半母音の[y]と[w]です。

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さあ、これでとりあえず準備完了。次回からは、いよいよ音韻講座の本編です。でも、今日のこの50音表が完成形なのではありません。、本編の中で、さらに修正していかなければなりません。沖縄語の音韻講座、本編(1)【ア行】へ


『沖縄大百科事典』「琉球方言の子音」の項より
伊江島の方言では(ʔは)rの直前にも位置し、らー[ʔra:](お前)などという。ʔは音声的には琉球全域にあるが、音韻的には奄美・沖縄(北琉球)方言に多い。宮古・八重山(南琉球)では音韻的なʔはほとんど現れない。沖縄でも久米島や糸満ではワー[wa:](豚)のように語頭のʔを失っている。わずかだが宮古伊良部島では語中のgがʔに変化してあっあ[aʔa](私が)という。