頭の中で、名前のはっきりしない何かが駆け回っている。言葉よりも前に何かがある。言葉を発したがる何かの観念が確かにあるのだが、しかし適切な記号を見付けて配列する忍耐力がない。それでも安易に語ろうとすると、今度は対象のはっきりしない見慣れた言葉が、手垢に塗れた積み木のように並ぶだけだ。
「私の頭の中に何か混沌たるものがあって、それがはっきりした形をとりたがるのです。」
(芥川龍之介「はっきりした形をとるために」)
僕の気持ちを蒸し返さずに考えてみること。記憶は所詮記憶に過ぎない。過去の僕の言葉を使わずに、そして新しく配列してみること。あえてそうしてみること。