台風一過、爽やかな青空に涼しげな雲が浮かぶ。今朝、宿を出た時は気分はすこぶる良かったのだ。だが……。
バラシの最中に怪我をしたメンバーを東京に送り返すため、滝川へ移動する途中に千歳空港に寄る。といってその事自体は大した事ではない。一人減って芝居がボロボロになるのだとしても、そんなことは大した事ではないのだ。むしろ僕に影響していたのは、大江健三郎の小説だったのかもしれない。ともかく、朝方に台風一過などと嬉しがっていた僕は、もはや存在しなかった。

夜の高速道、昨日から義務になったシートベルトに締め付けられて、僕はひどく居心地の悪い思いをしている。車の背後でジェット機が轟音をたてて飛び立つ。サイレンを鳴らさず、ただ赤いランプを回転させるだけの高速パトカーが、僕の運転するワゴン車を滑るように追い抜いてゆく。ラジオでは、日航機墜落で幼い命を落とした子供たちの追悼式が、それぞれの小学校で今日行なわれたと報じている。それに続いて殺人事件のニュース。台風で遭難した漁船の一報と秋鮭漁解禁のニュースとの奇妙なバランス。そしてとってつけたような天気予報……。

点々と続く照明に照らしだされた北海道の夜の高速道路は、あたかも異星人の住む星の冷たく湿った空間に浮かぶ滑走路のようだ。

〈こいつは古典的な文学世界ではない、現代小説の心象風景って奴だ。ほら、電波の粒子がはっきりと目に見える。きっと僕は、巨大な力に支配されているのだ。〉

そう思った瞬間に、この僕自身がミニチュアの宇宙船を操る巨人となった……。