紋別、名寄、白滝村…
ずっと空はぐずっていた。そして、寒かった。

「海は、ある日、ある時刻、不意にその輝かしい魅力を失ってしまう、人間たちは海から開放され秋が来る。秋、海はおとなしい老婆のようにちぢこまる」

「叫び声」の一節。
夏は開放的な季節だという健康的な固定観念、だが、むしろ夏的なものからこそ人は解放されたいのではないか。僕はそれに同意している。

そして、狩勝峠は満点の星。

誰に読ませるわけでもないのに、僕は全てを書こうとしない。本当の自分について、決して書こうとはしない。
何を見るのでもなく、ただぼんやりと車の窓から暗い外に目をやりながら、僕は、自殺… する… ことを… 思い浮べて、そして嘆き悲しんでいる。
愛するという事は、一個の人格を尊敬するという事…
故郷から遠く離れた身勝手な幻想。

〈さりげなく…〉

どこかで微かに響く誰かの呟き。独立した一個の人格、一体何の事だ、僕には全く理解できない。

ただ確かな存在の手触りのみ。全ての幻想よ、去って構わぬ。
僕が騙し続けたいと信じる過去と、守り続けたいと願う未来。

満天の星、それが僕を圧し潰す。
明日は久しぶりに晴れるのだろう。そうすれば、きっと忘れる。そして、本当の自分を隠して、この単調な現実だけを生きていく。
明日になったら、もう二度と思い出すことは無いだろう。だから、対向車のヘッドライトの明かりを頼りにして、車の中で必死にペンを走らせている。