1984年2月18日
「当世の通人はいずれも個人として考えれば、愛すべき人間に相違あるまい。彼らは芭蕉を理解している。レオ・トルストイを理解している。池大雅を理解している。武者小路実篤を理解している。しかしそれが何になるんだ? 彼らは猛烈な恋愛を知らない。猛烈な創造の歓喜を知らない。猛烈な道徳的情熱を知らない。猛烈な、――およそこの地球を荘厳にすべき猛烈な何物も知らずにいるんだ。」
(芥川龍之介「一夕話」)
朽ちた道標。〈右〉「通人」へ 〈左〉……「?」、欠損。「猛烈な物」は、〈左〉の先にあるのか、〈後〉にあったのか……。

1984年2月19日
芥川龍之介「三つの宝」。
〈左〉……、
「もっと広い世界」
「ただ我々はその世界へ、勇ましい一隊の兵卒のように、進んで行くことを知っているだけです。」
しかしそこは……、
「もっと醜い、もっと美しい、――もっと大きいお伽話の世界!」
〈お伽話〉ではなく、〈もっと大きいお伽話の世界〉とは一体何の喩? 道標の前で、立ち尽くす独りの〈兵卒〉。