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考えれば考えるほど苦しくなった。問題は、ユートピアの無い事ではなく、どうやってこの苦しみから逃れるかということだった。
「もはや普遍的な真理などどうでもよい、僕は、僕自身が救われることのみを切実に望んでいる。そして、もしかすると、あらゆる哲人が求めていたものも、結局のところ、自らの救済でしかなかったのではないのか」
思索の森へ続く道は、迷宮の入り口に思えた。しかし、辛うじて生きて歩ける道らしきものも、そこ以外には見つからなかった。


カテゴリ: 《過去のノート》
哲学者は、感情を置き去りにすることによって体系を構築した。彼らは合理主義者観念論者と軽蔑される。だが僕は、「彼らの隠された感情と苦悩をその行間から読み取ろう、そのためにこそ、彼らの辿った思考の道を歩み直すのだ」と意気込んでみた。ただそれだけが残された道だった。
だが、行間にはこう書いてあった。
「厳密たらんとする者、行間など読むな」。

苦しいのだ。「理性」が当惑している。そんなものが、まだこの僕にあればの話だが。
ふと、洗面所の汚れた鏡に目をやると、「狂気」が僕をうかがっている。僕は、訪れた恐怖に硬直する。

ああ、どれだけの人間がユートピアを夢見たことか。もしも全ての人間にとっての唯一絶対の真理があったなら、そして何者かによってそれが解明されたとしたら。人々は考えることをやめ、人々はついに現れた絶対的なものに身を任せ、人々は至上の安らぎの中で静かに憩うのだ。なぜなら、思考とは苦悩の別名なのであり、だとすれば、思考の無い世界こそがユートピアなのだから。

そうだからこそ、例えば仏教は、仏典を唱えさせ、宗徒たちに「空虚」を与えようとするのだ。
はたして、衆生は、仏陀よりも幸福であろうか。

苦悩の昇華が芸術であり、最も根元的苦悩の昇華こそが最も価値ある芸術を生む、やっと見つけた理屈、僕は、それに最後の希望を託してみた。だが、限界なのだ。僕は、あの苦しさに、もうこれ以上耐えられない。

ここ数ヶ月の苦しさ、ほんの少しは薄らいだのだろうか。苦しさがどれほどのものだったのか、今となっては量るものがない。

ここ数ヶ月の苦しさ、それは苦しさを苦しむその苦しみ。
唐突に何気ない風景に感動した記憶、ほんとに微かな朧げな思い出、そして、僕はその時、その〈わけ〉を確かに知っていたはずなのに、あれは、熱病の狂気の中で見た幻聴だったのか。
確かに、僕は、聴くべきものを見たのだ。

僕は、訪れる「狂気」の予感に、弛緩している。

カテゴリ: 《過去のノート》
太宰治「僕はね、お道化を演じて、そうして人に可愛がられたのです。でも、あの淋しさはたまらなかった。空虚だった。」
アンドレ・ジイド「愛サレテイナカッタノデスカ?」
太宰治 「どうかな、でもそう思い込んではいた。」
別役実「誉められるけれど、決して愛されない人間でした、僕は。」
太宰 「いずれにしても、そんなことはどうでもよくなっちまった。十六才になったらカタリと変わった。悪の存在が、困難な問題がわかったんです。」
ジイド「ツマリ、愛ノ問題デハナイトイウコトデスネ。」
太宰 「それもどうかな。ともかく、そうしたら毎日不機嫌になった。知恵の実を食べると、人間は笑いを失うものらしい。」
ジイド「ソレハ私モソウ思イマス。マコトニ幸イナルカナ、己ガ幸福ヲ知ラバ、トイウノハ、べるぎうすノ句デスガ、シカシ私ハ、マコトニ幸イナルカナ、己ガ不幸ヲ知ラザリセバト言イイタイノデス。」
太宰 「でもね、それだけじゃ当たり前過ぎてつまらない。その先があるんだ。僕は戦おうと思ったのです。知恵の実は孤独の他に怒りをも教えてくれたのだ。」
ジイド「ソシテマスマス愛カラ遠ザカル……」
別役 「陰険な精神は武器になるのですよ、きっと。」
ジイド「主ハ、微笑ヲモッテ正義ヲナセトオッシャッタ。」
太宰 「そうできれば爽快でしょう。だが僕は正義ではなく真理の話をしているのです。真理の発見は人間に爽快な快楽など決して与えやしない。知恵の実は苦しいものなのだ。」
別役 「あなた、ことさら演技していませんか。あなたの愛しているのは本当に知恵なのですか、それともそういうあれではなくて……。」
太宰 「たぶん、僕には不幸を愛する傾向があるんだね。」
別役 「あの『地下室の手記』をお薦めします、ドストエフスキーの。」
ジイド「本当ノ幸福トハ何ナノデショウ。かとりっくカ、ぷろてすたんとカ、ソレガ問題デス。」
太宰 「そんなものですかね……」
別役 「よくわかりません……」
ジイド「……何カ答エテクダサイ。何事ヲモ為サザルハ罪ヲナシツツアルナリデス。」
太宰 「そう言われてもね、僕はニーチェではないし、だからヒトラーでもナポレオンでもないんだ。」
別役 「ラスコーリニコフも、結局ナポレオンにはなれませんでした。だから『罪と罰』   はだめなんです。」
太宰 「まわりくどい批判ですな。だが、少なくとも僕は男だ。」
別役 「そういうのが芝居がかってるのです。」
太宰 「じゃあ、君は何? 芝居屋じゃないのかね」
別役 「違うのです、少し。例えば、あなたとか……。」
太宰 「淡々とした本物の幻滅……」
別役 「そういう展開、たとえば、つかくんとか……。」
太宰 「行き着く所は絶対孤独。」
別役 「いいえ、いきつくところは地下室なのです。」
ジイド「ソノ前ニ、マズハ狭キ門デス。」
太宰 「後は、自殺か、それとも阿呆か。」
ジイド「自殺デス。」
別役 「いいえ、やはり地下室です。」
太宰 「わが友の、笑って隠す淋しさに、われも笑って返す淋しさ。」
ジイド「何デスカ、ソレ。」
太宰 「僕ね、昔日記にこんな事書きました。近頃の僕の生活には悲劇さえない。」
別役 「確かに、それが一番悲劇かもしれません。」
ジイド「ソノトオリデス。」
太宰 「神様が高笑いしちゃいないかね。」
ジイド「ツマリ、問題ハ生活トイウコトデスカ?」
別役 「すきません?」
ジイド「ハァ?」
別役 「つまり、おなかはすくものなのです。」
太宰 「なるほど、そういう展開ね。」
別役 「ですからね、おなか、すきませんかっていったんですけれどね。」
ジイド「スキマシタ。」
太宰 「日常生活に即した理想が一番だ。」
ジイド「ハイ。」
太宰 「生活を離れた理想は十字架へ行く道なんだ。」
ジイド「ソレハ気ニイリマセン。」
別役 「まあ、この人が言ったのはそういうあれじゃないんですから。」
太宰 「確かに腹へりました。人間の悲惨を知らずに、神をのみ知ることは、傲慢を惹き起す。」
ジイド「ぱすかるデスネ、ソノ言葉ニ免ジテ許シテアゲマス。」 
別役 「大袈裟です……」
太宰 「行きましょう。」
別役 「そうしましょう。」
ジイド「ハイ。」
(これは、かの「ゴドーを待ちながら」ではない。従って、彼らは何の躊躇もなく去っていってしまった。「生活の尻尾」とやらをぶらさげて。太宰治氏曰く、「ニヒルと食欲とは、何か関係があるらしい。」)

大喝采のうち、静かに幕が下りてゆく……

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6月13日金曜日: 13日の金曜日のcoffee break

カテゴリ: 書斎で書くこと
ちょっと脇道へ。

「ゴドーを待ちながら」は、大喝采のうちに幕を下ろした。作者サミュエル・ベケットは、苦々しく、こう言い捨てた。
「次は、もっと難解なものを書かなければ」

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カテゴリ: 書斎で書くこと
1983年以前のノートは破り捨てた。きっとその年の春のことだ。破り捨てた理由は憶えていない、しかし、その春は懐かしい。

僕は、ちょいと危なっかしいところにいた。今、埋め草に使っている1983年からのノートは、そこから立ち直って書いたものだ。

ただ、捨てずに残したものがあった。

レポート用紙に書き綴った、「統一の意思」と題した未完の哲学的草稿。
それこそが、危なっかしさを増長した元凶だったのか、それとも、救いの天使だったのか。書くことによって深みにはまっていったのか、書いたから逃れられたのか。

身体的原初的欲求からヘーゲルの「精神現象学」、そしてマルクスの「資本論」、果ては「第9」から「仏教」に至るまでを同列に思索する。なんとも壮大な構想である。
空腹を満たすことと祈ることが同じだというのではない。むしろその不連続性を証明することに躍起だった。何のためにか、食うことと祈ることを、ひとつの理念によって統一させることの苦悩と、そしてその希望を語るために。

大袈裟な話しだ。

ただ、今も僕は、その自前の世界観に、全ての現象を密かに当てはめて考えているふしがある。
CDを作ることも、このブログとやらで語ることも、「統一の意思」の不連続性の中にある。

少しばかり、分かり易す過ぎておもしろくない。

至るところで分裂している。
「社長」とやらの昼間の喧騒と夜の肩書なき沈黙。小説家の作品と役者の記憶、父親の役割と息子の中に見つけた過去の残像。会社と非会社的なるもの、芸術と非芸術的なるもの。
「やまと」と「おきなわ」。

分裂は内にある。日記で、内なる他者と出会う。あるいは、日記そのものが、内なる他者の「死」でもある。だがブログは、理念として初めから世界を他者としているものだから、内なる他者を見つめることを忘れる。あたかもブログの文章が、自分の「生」のかたちだと勘違いして世界と対決する。

君たちがインターネットという万華鏡で覗いている世界は、ほんとうは、虚ろなのだ。

「続きを読む」なんて機能がある。そう書いたら、現実に引き戻された感じがする。なんだか妙だ。「ブログ」と「統一の意思」とは、いったいどっちの方が「より確かなもの」なのか。

その「続きを読む」を使って、「統一の意思」の冒頭の一部を、虚ろな世界に向けて公開してみる。
全く残響のない洞窟に、僕の過去という「死」を葬るのである。



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